WEEKLY COLUMN
物語のある車と時計 #01
童心に返るような、冒険心を搔き立てられて

私たち男を惹きつけてやまない車や時計。その引力の源は何なのでしょうか。美しいプロポーション?それとも優れた機能性?あるいは、画期的なイノベーション?きっとどれも正解でしょう。
しかし、世に数多ある名作の中でも、他と一線を画すプロダクトには共通点があると思うのです。それが、その背景に横たわる物語。

ここでは、冒険心を搔き立てるような物語を秘めた車と腕時計を紹介します。そのストーリーに心揺さぶられ、あなたは童心に返ったような体験をするかもしれません。

世界一有名なスパイが愛用した、“世界一有名な車”

アストンマーチン/DB5

スパイ映画の金字塔、『007』シリーズ。架空の秘密情報部(MI6)エージェント、ジェームズ・ボンドの活躍を描いた同作をご存じのない方はいないでしょう。10月8日には、6代目ジェームズ・ボンド役を担ってきたダニエル・クレイグ最後の作品となるシリーズ最新作、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』も公開したばかり。まさに今、巷で話題の作品です。

すこぶる有能で、美女からの注目を一身に受ける。まさに男の憧れを絵に描いたような人物が、ジェームズ・ボンドです。そんな彼が愛用する車といえば、アストンマーチン. DB5。
劇中に初めて登場したのがシリーズ3作目となる『007 ゴールドフィンガー』で、特別武装したこの車が大活躍し、作品を大いに盛り上げています。以降の作品でも、ジェームズ・ボンドの愛車としてカメオ的に度々映画に登場しているため、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

DBとは、その昔、経営状態が悪化したアストンマーチン・ラゴンダ社を買取り復活させた立役者として知られる、デービッド・ブラウンの頭文字をとったもの。
DB5は、DB4の後継として1963年にデビューしました。完全なハンドメイドによるアルミニウム合金製の美しいボディは、イタリアの名門、カロッツェリア・トゥーリングが担当。総アルミ軽合金の直列6気筒DOHC・3670ccユニットを搭載することで、前作より排気量も向上。
デービッド・ブラウンが関わったモデルの中でもDB4は“傑作”と謳われていますが、DB5は“最高傑作”と今なお賞賛を浴びているのです。

ただ実は、『007 ゴールドフィンガー』がクランクインする以前、シリーズのプロデューサーを努めていたアルバート・R・ブロッコリは、アストンマーチン・ラゴンダ社ではなくジャガー社へEタイプの提供を依頼をしていたといいます。結局は話がまとまらず、アストンマーチンDB5を起用するはこびとなりました。
もしかするとジャガーのEタイプがボンドカーになっていた可能性があったことを考えると、それはそれで夢があります。そんな運命のいたずらもまた、世界一有名なスパイが愛用した名車のストーリーに、深みを持たせてくれる良きスパイスとなるというものです。

古より人類が到達を目指した、月面に降り立った時計

オメガ/スピードマスタームーンウォッチ プロフェッショナル

オメガのスピードマスターが誕生したのは、今から半世紀ほど前の1957年。“秒単位以下の時間を競う男たちに贈る”。これは当時のスピードマスターに込められた、作り手の想いです。
軍が設定した耐磁性、耐衝撃性をクリアしたオメガの名作、シーマスター300をベースに、モータースポーツのプロフェッショナルモデルへ転用したのが初代スピードマスターでした。タキメーターをベゼルに配した世界初のクロノグラフウォッチで、時に空軍パイロットの腕元で、時にレースの世界で強烈な存在感を放ったのです。

1962年、NASAでは宇宙空間でも耐えうる、宇宙飛行士のための時計を捜し求めていました。高性能を謳う各社のクロノグラフウォッチが集められ、高温環境下、低音環境下、気圧、衝撃、振動、可聴音ノイズ…など、全11項目にわたるテストが実施されたのです。あまりの過酷さに耐えきれず不具合を起こしたモデルが多かった中で、最後まで正確に時を刻み続けたのがこのスピードマスターでした。
3年後、「NASA」は正式にスピードマスターを標準装備品として認定。そして1969年、人類は初めて月面へと降り立ちます。アポロ11号の船長を務めたニール・アームストロングの言葉、「That’s one small step for a man, one giant leap for mankind.(これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である)」はあまりにも有名ですが、宇宙に挑む男たちを腕元から支え続けた時計がこのスピードマスターというわけです。

翌年、アポロ13号が再度宇宙を目指しました。もちろん、その腕元にはあったのはスピードマスターです。しかし、地球を出発した矢先に事件は起こります。酸素タンクが爆発し、電気系統も動作を停止するという大きなアクシンデントが発生。問題を抱えたまま宇宙へと飛び立ってしまったのです。
アポロ13号が無事に地球へと生還するためには、当初設定していた正しい軌道から外れないよう正確にロケット噴射を行わなければなりませんでした。極度の緊張と静寂が周囲を覆う中、噴射のタイミングを図るため船員たちが頼りにしたのがスピードマスターでした。時を刻む小さな音に全てを託して、タイミングを見計らいながらロケット噴射のボタンを押したのです。結果、軌道から逸れることなく見事地球へと生還することができました。

アポロ11号が月面着陸して以降、計6度、人類は月に降り立っています。そんな全ての歴史的偉業を成し遂げた船員たちの腕元にはスピードマスターがあったのです。
NASA標準装備品という事実は、単にスピードマスターの性能を示すものではありません。期せずして感動のドラマを演出したこの時計は、私たちを悠久の旅へと誘います。ここ地球からはるか彼方にある宇宙。あなたはスピードマスターを身に着けるだけで、さまざまな想いを巡らせることでしょう。


スクリーンの中、あるいは宇宙、月面。そこが簡単に足を踏み入れられない場所だからこそ、男たちは憧れを抱くのでしょう。そんな想いを喚起するのが、この名作なのです。
アストンマーティンDB5は単に人や荷物を運ぶための道具ではありませんし、オメガスピードマスタープロフェッショナルは計時のための道具でもありません。これらの車と時計には、背景に秘められた物語があります。そして、男の魂を揺さぶるような、問答無用の格好良さがあります。だからこそ、冒険心を搔き立てる時計と車に、ぜひその身を委ねてみてください。