WEEKLY COLUMN
名画を彩るカクテル #01
甘酸っぱい「フレンチ 75」に透けて見える女心

数え切れないほどの名作映画。そこには決まって作品の“顔”である主役を輝かせる、最高の名脇役がいることを皆さんはよくご存知のはず。
それは、なにも人であるとは限りません。劇中に登場するお酒が、演技やシーンに華やかなアクセントを添え、物語にさらなる深みをもたらすことがあります。
というわけで、今月は名画とそこに登場する印象深いお酒をご紹介します。
第1回目は、時代に翻弄されつつ一度は別れた男女の愛の再燃を描いた映画『カサブランカ』と、女心や時代背景を暗に伝えた一杯について。

大戦の最中に再会を果たした、男女の切ない恋物語

映画『カサブランカ』
1942年公開(日本では1946年)
監督 マイケル・カーティス
出演 ハンフリー・ボガート イングリッド・バーグマン 他

第16回アカデミー賞で8部門にノミネートし、作品賞、監督賞、脚色賞を受賞した不朽の名作、『カサブランカ』。
かつて深く愛し合った男女が、偶然の再会を果たしその想いを再燃させていく物語は、時代背景も後押しし多くの共感を呼びました。

時は第二次世界大戦下。ヨーロッパではナチスドイツの侵略が猛威をふるい、多くの人々がアメリカへの亡命のための中継地であるポルトガルの首都・リスボンを目指しました。
しかし、そこまでの道のりには多くの困難が待ち受けていました。リスボンへ飛ぶ飛行機に乗るべく、ドイツの管理下にあったフランス領カサブランカへと人々は足を向けますが、出国ビザが下りず足止めをくらっていました。
同地にてバー兼カジノを経営していたのが、ハンフリー・ボガート演じる主人公のアメリカ人、リック。そこへ現れたウガーテという男が、とある人物に売る通行証を彼に預けたところから、物語はより複雑な人間模様を描きます。リックはそれをピアノの中に隠しましたが、その矢先、ウガーテは警察に逮捕されてしまうのでした。
しばらくして、店にラズロという男とその妻が訪れ、妻が店のピアニストに思い出の曲をリクエストします。「その曲は禁止だ」と強い口調で制止するリック。
その女性こそ昔、リックがパリで甘いひとときを過ごし愛し合った恋人、イングリッド・バーグマンが演じるイルザだったのです。

「フレンチ 75」の甘酸っぱい味が暗喩する、時代背景と女心

[フレンチ 75のレシピ]
①グラスに氷を入れる。
②シェイカーにジン/45ml、レモン汁/15ml(レモンジュースでも可)、シュガーシロップ/小さじ1杯、氷を入れる。
③シェイクしグラスに注ぐ。
④最後にスパークリングワインをグラスいっぱいに注いでカンパイ。
※好みに合わせてそれぞれの量を変更するのも可。

「キミの瞳に乾杯(Here’s looking at you, kid.)」は、『カサブランカ』を語るうえでは欠かすことのできない名セリフです。
映画を知らなくとも、このセリフを聞いたことはあるかもしれません。劇中でこの言葉は数回発せられますが、最も有名なのは、やはりリックがイルザに向けて発したシーンでしょうか。
その時に飲んでいたお酒といえばG.H.マムのコルドン・ルージュというシャンパン。そのほかにも、リックに思いを寄せていたイヴォンヌという女性が彼にフラれる名場面がありますが、そこで飲んでいたのはスミノフのウォッカでした。
さまざまなシーンでお酒がいい演出を果たしているのです。

「フレンチ 75」もまた然り。これは第一次世界大戦中、フランスの勝利を祈ってパリで生まれたとされているカクテルで、カクテル名は口径75㎜という当時の最新鋭の大砲に由来しています。
ドライジンなどをシェイクしグラスへ注ぎ、そこへ氷と冷やしたスパークリングワインをいっぱいに注ぐというものです。
劇中では、リックとの愛を成就できなかったイヴォンヌがその当てつけにドイツ兵の男と店を訪れ、このカクテルをオーダーします。
それを見ていた周囲の客は「ドイツ兵と飲むなんて…」と軽蔑の目を向けるのですが、そのルーツを知っていると、シニカルな意味が込められていることがわかります。甘酸っぱいその味は、イヴォンヌにとってはきっと生涯忘れられない味となったことでしょう。

リックとイルザが激しく愛し合うシーンでも、心を激しく揺さぶられる別れのシーンでもありません。ただ周囲の嘲笑を誘う、フラれた女性の愚かな行為を描いたシーンです。
しかし、「フレンチ 75」が彼女の心情や当時の時代背景を暗に匂わせることで、私たちに様々な感情を抱かせます。そんなカクテルの好演が、この作品に脚色賞をもたらしたのかもしれませんね。