WEEKLY COLUMN
名画を彩るカクテル #02
最高にハッピーな時は「ボイラーメーカー」で

名画を見返すたび、劇中で使われる小道具には様々な意味があるものだと改めて考えさせられます。それらは、ときに物語のキーとなる場合もあるでしょう。そして登場人物の心情を端的に、あるときに暗喩という手法で伝えてくれます。
お酒はその代表となるものです。
今回取り上げたのは、壮大な自然を背景に家族の絆と心情を繊細な描写で描いた名作、『リバー・ランズ・スルー・イット』。
そこに登場するお酒は実にアメリカらしく、物語のメインキャストである兄弟の絆や楽しげな様子を表現するうえで絶妙なキャスティングでした。その作品とお酒を、改めて紐解いていきましょう。

釣りを通して人生の意味や家族愛を描いた映画

映画『リバー・ランズ・スルー・イット』
1992年公開
監督 ロバート・レッドフォード
出演 ブラッド・ピット クレイグ・シェイファー 他

1970年代にはハリウッド屈指の美男俳優としてならし、映画『普通の人々』ではアカデミー監督賞も受賞するなど、多彩な才能を発揮してきたロバート・レッドフォード。
映画『リバー・ランズ・スルー・イット』は彼がメガホンを取ったことでも知られる同作は、第65回アカデミー賞では撮影賞に輝き、主演のブラッド・ピッドが俳優として広く知られるきっかけにもなった作品です。

舞台は、1910〜1920年代のアメリカはモンタナ州ミズーラ。
そこに住む二人の兄弟、ノーマン(クレイグ・シェイファー)とポール(ブラッド・ピット)は、牧師の父マクレーン(トム・スケリット)からキリスト教の教義と釣りの精神性を学びながら伸び伸びと暮らしていました。
二人の性格はまるで正反対。穏やかで文章を書くことを好んでいた兄ノーマンとは違い、弟のポールは明るくイタズラ好き。
しかし、ふたりは大好きなフライフィッシンングを通じて常に心を通わせていたのです。

時は経ち、兄ノーマンは故郷を離れダートマス大学へ進学。6年もの間ほとんど帰省することはありませんでした。
片や弟ポールは地元の大学へ進学。卒業後はモンタナ州ヘレナの新聞社で働き始めます。その後、ノーマンは故郷へ戻り、とある大学の教職に就きます。
そんなある日、独立記念日の夜に町で催されていたパーティーで見かけたジェシー(エミリー・ロイド)に一目惚れ。ノーマンはポールのいる酒場まで足を運び、その思いが真剣であることをポールに熱く語ります。ポールもその恋の成就を願い、ふたりは夜中まで酒を飲み交わすのでした。
その後、ノーマンはポールが酒とギャンブルに溺れて身を危うくしていることを知ります。ギャンブルにはまり、多額の借金を抱えていることを知ります。物語は静かな展開でまるで川が流れるように、淡々と丁寧に兄弟の成長を描いていきます。

エンタメ性の高い「ボイラーメイカー」のワイルドな作法

[ボイラーメイカーのレシピ]
①ビールをグラスの2/3ほど注ぐ。
②ショットグラスにウィスキーを3/4ほど注ぐ。
③ショットグラスをビールの入ったグラスへ落とす。
④最後にビールをグラスいっぱいに注いで、乾杯。
※好みやグラスに合わせてそれぞれの量を変更するのも可。

家族への複雑な想いがアメリカの雄大な自然とともに描かれ、人生の意味や家族の絆について考えさせられる『リバー・ランズ・スルー・イット』は、兄弟と父の3人で行われるフライフィッシングのシーンが特に印象的です。
しかし、互いを思いやる兄弟が酒を酌み交わすシーンもまた、作品のハイライトのひとつといえるでしょう。
そこで、ノーマンの高揚感を表現しているものこそ「ボイラーメーカー」です。

ボイラーメーカーは、アメリカで生まれたとされているビールを使ったカクテルです。
一説には、ボイラーの建設作業員が飲みかけの缶ビールにバーボンウィスキーを入れて飲んだのが始まりとも言われています。アメリカ生まれということもあり、ウィスキーにバーボンを使用すればさらに本場に近い雰囲気が味わえます。

作り方は、グラスにウィスキーを入れ、そこへグラスいっぱいまでビールを注いでいくというシンプルなもの。もしくは、多くの人にとってはサブマリンスタイルの方が馴染みがあるかもしれませんね。
それは、ショットグラスにウィスキーを注ぎ、そのグラスを生ビールで満たしたグラスの中へドボン!と投入する“ワイルドな作法“が特徴です。
そしてご想像のとおり、アルコール度数は非常に高く飲みすぎにはくれぐれも注意したいところですが、勢いよく気分を高めるカクテルとしても知られています。
劇中ではジェシーのハートを射止めたノーマンがポールと酒を酌み交わすシーンで登場します。いつもは生真面目な兄が「ハートに乾杯!」とボイラーメーカーを飲み干す姿に驚きますが、弟は兄の幸せを心から祝福します。

実にアメリカらしい、大胆で遊び心に溢れたカクテル。劇中ではふたりの心情やお国柄を表す最高の演出として用いられています。
一方でお酒は、ギャンブルと共にポールを破滅の道へと誘う要素にもなっています。
映画『リバー・ランズ・スルー・イット』は雄大な自然の中で繰り広げられるフライフィッシングが有名ですが、お酒に着目しながら観てみると実に楽しいものです。