WEEKLY COLUMN
感性を育むための読書 #01
一度立ち止まって考える、そんなときに読みたい本

激動の2021年。
社会と生活様式が一変する中で、それまで私たちにとって常識であったものが非常識になる、そんなことをありありと見せつけられた一年であったように思います。
そして自分にとって本当に大切なものは何か、普遍性や不変の価値というものを、改めて問い直すきっかけにもなりました。

第1回目は、新しい時代の幕開けとなるこのタイミングで、ぜひ手に取ってみてほしい本をご紹介します。
仕事やプライベートを問わず、さまざまな気付きを与えてくれるでしょう。

自分を愛せなければ他人を愛することはできない

『愛するということ』
著者/エーリッヒ・フロム
(発行元:紀伊国屋書店・発行年:2020年9月[改訳]・1959年[旧訳])
最愛のパートナー、愛する我が子、かけがえのない家族、気のおける友人たち。あなたの周りにもきっと、たくさんの愛する人たちがいることでしょう。
見返りを求めず困っていたら手を差し伸べる。彼らのために取る行動に、おそらくは説明は不要かもしれません。

一方では、血のつながりを超えた憎しみによる悲しい事件も頻発しています。
我が子を手にかける親、怨恨のもつれから命を奪い合う男女。
果たして、愛とはいったい何なのでしょうか。考えも及ばないことが起こりえる今、改めてその根本的感情と向き合ってみるのもいいかもしれません。

本作『愛するということ』は、ドイツの精神分析学者、エーリッヒ・フロムが1956年に発表した代表作です。
世界各国で翻訳され、その土地土地でベストセラーを記録。ここ日本でも、1959年に和訳版を出版し、1991年には新訳として再版。そして、2020年改訳版として再び出版されました。

本書では、愛は決して摩訶不思議で解析や説明の及ばないものではないという彼の主張が理路整然と語られています。多くの人々は、それを自然発生的な感情と考えていると思いますが、彼は「その人の意思であり“技術”である」というのです。 そして、愛するという“技術”は先天的に備わっているものではなく、習得することで獲得できると説きます。自分を愛せないものは他人も愛せないとし、相手を愛するためにはまず自分の人間としての成熟、人生の充実を図らなければならない、と。
これは、現代におけるマインドフルネスに通じる部分とも受け取れます。

ほかにも傾聴の重要性や西洋思想と東洋思想の違いなど、興味深い内容が4章にわたり記されています。
本書を手に取り、今一度、もっとも身近で大切な“愛”という感情について考えてみてはいかがでしょうか。

アカルイミライを想像するだけでポジティブになれる

『2060 未来創造の白地図 人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる』
著者/川口伸明
(発行元:技術評論社・発行年:2020年3月[改訳])
「どこでもドア」に「タケコプター」、「もしもボックス」に「タイムマシン」…etc。幼少期、アニメ『ドラえもん』に登場する奇想天外な道具に、きっとあなたもワクワクしたのではないでしょうか。
テクノロジーの発達、画期的イノベーションのその先に描かれる未来に、誰もが心トキめかせていたに違いありません。
とはいえ、昨今ではSDGsが広く浸透し、地球に迫り来る危機に対し警鐘を鳴らすニュースばかりが目に留まります。おそらく、今我々が想像する未来の地球の青写真に描かれているのは、希望の光などではなく暗い影なのです。

本書は、2060年の地球を舞台に今後生まれるであろうテクノロジーにより、我々の生活がどう変化し、働き方や生き方がどう変わっていくのかをテーマに描かれています。
環境に応じて色や形が変化する服、砂漠や宇宙で作れる寿司やステーキ、空飛ぶ車椅子が飛び交う街。それこそ『ドラえもん』の世界のようにも聞こえますが、興味深いのは、空想や妄想上のSFファンタジーではなく科学的根拠をもとに描かれているところ。
つまりは、こうなったらいいな、ではなくこうなるだろうという限りなくリアリティをともなったお話なのです。

明るい未来を築くのか、暗い未来を避けるのか、根本に据える行動原理の違いによって、おそらく我々の心持ちや生活も変わってくるでしょう。
未来へ射しこむ希望の光を通して、エンタメ、食文化、農業、医療、環境などあらゆる分野の未来予想図を一冊にまとめた本書。そこから明るい未来を想像することで、あなたが今何をすべきかがより鮮明になってくるかもしれません。
いずれにせよ、明日から前向きな一歩を踏み出せることは間違いないでしょう。

20代が抱えるジレンマを通して見えてくるものとは

『20代で得た知見』
著者/F
(発行元:KADOKAWA・発行年:2020年9月)
世の中に対する不満、明日に対する不安、周囲に対する不信、そして自分に対する嫌悪…。思い返せば多感な20代のさなかに抱えていた想いは実に膨大でした。
それらを処理するための経験や知識に乏しく、発露の場も限られていたことから常に何らかのジレンマを秘めていたようにも思います。突きつけられた現実に悩まされ、不条理に苛まれ、抗えない力に消耗していたのも事実でしょう。
そして今、時の経過とともにその気持ちを建前で塗り固め奥へとしまいこんでしまった大人が大半ではないかと思われます。

4章にわたり描かれているこちらのエッセーは、著者が20代の頃に感じた嘘偽りない想いを綴っています。
第1章「不完全からの出発」は50のエッセーでまとめられ、第2章「現実に関する幾つかの身も蓋もない事実」で書かれた44のエッセーには、今の時代を生き抜くうえで参考になりそうなヒントが隠されています。
第3章「アンチ・アンチロマンチック」に寄せた50のエッセーには、きっと心が揺さぶられるでしょう。
最終章「愛に関する幾つかの殴り書き」では、愛についての41のエッセーに気持ちが高ぶります。
それぞれのテーマに沿ったエッセーのひとつひとつは、おそらく今の若者たちの心にひと筋の光明となるでしょう。そして我々も、ひた隠しにしていた“なにか”と向き合うことで、なんらかの気付きを得るに違いないのです。

当時を思い出し共感することがたくさんあるでしょう。
社会の一部となった今、改めて自身のこれまでを思い返すきっかけになるかもしれません。たとえ時代が変わろうとも、若かりし頃に抱えていた鬱屈は、今の若い世代も抱えているかもしれない。
年を重ね、様々な経験をしてきた私たちだからこそ、手に取りたい本といえるのではないでしょうか。


時を経て得たものもあれば失ったものもあります。
常識という凝り固まった概念に捉われ、窮屈な思いをして生きている。もしかしたら、そんなことに気付くきっかけになるはずです。
今私たちに必要なのは、一度立ち止まって考えてみることではないか。そんなことを考えながら、この3冊を選んでみました。